竜の巣再建中

七草春花/ハルカテイルズ/HarukaTalesの創作倉庫

ドス子の『実録! ぷちレト航空隊』

 13期にニーチェさんからネタを振って頂いて、うんうん悩んだ結果、ご協力を得て14期初頭に何とか出来上がった一作。
 ドストエ……ドス子さんがうまく書けているか心配だったのですけれど、キャラオーナー様的にはバッチリオッケーだったようで、一安心です。

 


 魔導カメラはちゃんと動いてるか? ……お、大丈夫そうだな。
 えー、あーあー、マイクテステス。
 ……おはよう、者ども!
 今日は、傭兵部隊《永劫回帰》の頭脳労働を一手に担う、この大軍師ドストエ……流石に本名そのままは不味いか? ……コホン、この大軍師ドス子が、近頃巷で話題の《ぷちレト航空隊》について、自ら直々に調査しに来たのダ! ……なに、知らんだと? 仕方のないのーきんめ、簡単に教えてやろう。
《ぷちレト航空隊》というのはな、かのドラゴンライダーのレトと騎竜のシャオウを小さくして愛らしいぬいぐるみにしたような、そんな謎の存在によって編成される小隊で、ティス司令によって指揮されている。こんなのだ、見たことくらいある者もいるだろう。
(どこからともなくボードを取り出して者どもに向ける)
 果たして生き物なのか作り物なのか、生き物ならどんな生活をしているのか、気になるであろう?
 このドス子も、一度捕まえてみようとしたのだが、うまく行かなくてな。正攻法に切り替えて、こうして直接取材にやってきたという訳だ。そう、切れ者は頭の切り替えも速いのだぞ、フフン。
 なに、交戦中の敵国によくも堂々と、だと? それこそ分かっておらんな。干戈を交えてはおるが、断交状態ではないぞ。平時と比べればいろいろ厳しいが、交易も行われておるし。このドス子に掛かれば、このくらいの訪問は造作ないのだ。予め、ティス司令にお願いもしてあるしな。アポ無し取材など、それこそのーきんどものすることだからな!

 

 さて。
《ぷちレト航空隊》の本拠は、アティルト郊外上空の《薔薇の空中庭園》とやらにあるそうだ。そこまでどうやって行くかだが、兎に角、傭兵部隊《竜の巣Lv7》の拠点たる図書館にまで来てくれれば良い、という話だったので、こうして出向いてきた訳だな。
 よし、ちゃんと出迎えも出ているようだな。
「おはようございます、ドス子さん。話は聞いてますよっ」
 うむ、おはよう。レッティ、出迎え感謝するぞ。
 紹介しておこう。こちらはライブラ☆レッティ。この図書館の管理人、司書だな。こう見えてなかなかに博識の人物なのだ。
 そしてここだけの秘密だが、実はライブラ☆レッティの正た……もごっ、んぐ、何を……むっ、これはプリマドミラルのカッツェンツンゲ!
「はい、おやつですよ~。それと、『利用規則』はしっかりお守り頂きませんと、困りますわ」
 う、うむ。確かに規則は大事だな! このドス子、何も言い掛けてなどはいないぞ、うん。
 それはそうとレッティ、こうして図書館まで来たはいいが、ここからどうしたらいいのだ?
「ここに《薔薇の空中庭園》行きの転送魔法陣がありますから、それで」
 ほう。このドス子は魔法使いではないから生憎詳しくないが、それでも術者以外が使える転送魔法というのは相当珍しいものと聞いている。そんなものがここにあるとは。
「こちらですよ」
 案内されるままレッティについて行くと、間もなく床に魔法陣が描かれた部屋に通された。
 その魔法陣の回りをふよふよと飛んでいるのは、正にぷちレト航空隊。小さなドラゴンライダーが、魔法陣の外周に沿うようにゆっくり旋回している。
「そちらの魔法陣から《薔薇の空中庭園》に行けます。準備ができているのでしたら、どうぞ魔法陣の真ん中へ!」
 レッティに促されて、魔法陣の中心に足を進めると、ぷちレト航空隊はどこからともなく針か楊枝のような棒を取り出して掲げ、旋回の速度を上げたようだ。魔法陣の起動儀式か何かだろうか?
「それじゃ、行ってらっしゃい!」
 レッティが手を振る。ぷちレト航空隊がそろそろ魔法陣を一周しただろうか……


 と思った時には、見覚えのない風景が目の前に広がっておった。屋外で、幾つかの浮島とそれらを繋ぐ架け橋が見える。地面や水面は見えん。《薔薇の空中庭園》とは名ばかりではないということだな。
 上空らしく、肌に触れる空気が少し冷たい。いつも通りマントを羽織ってきて良かったと言うべきだな。足元にはやはり魔法陣が描かれていて、そばをぷちレト航空隊がふよふよと飛んでいる。
「おはようございます。朝からこんな辺鄙な空中庭園まで、ようこそ」
 後ろから声がして、振り返ると白い軍帽と制服姿のティス司令がいた。そのまた後ろの方には三組のぷちレト航空隊が飛んでいた。
 おはよう、ティス司令。
「改めて、ぷちレト航空隊 司令のティス・エリア・ウィンディローゼです。今日は私の指揮下にある、ぷちレト航空隊のみんなが普段どんな一日を過ごしているのか、ご紹介致しましょう」
 うむ、よろしくお願いするぞ。それにしても、見事なカメラ目線。こちらが魔導カメラを身に付けていると見るや、直ちに対応してくれるのは、流石だな。こういう阿吽の呼吸が大事なのダ!
「まず、ぷちレト航空隊のみんながどういう存在なのかということについて」
 魔法陣から離れ、屋敷の方に向かう道すがら、ティス司令はいろいろ話してくれた。
「端的に言うと、姉さん……レトの分身です。レトは訳あって膨大な魔力をある種の回路に循環させているのですけれど、ただ循環させているだけじゃつまらないから何か仕事をさせようと言って作ったんです」
 なるほど、魔法的な分身ということなのだな。
「最初は一組だけだったんですけれど、どうせ仕事をさせるならたくさんいた方がいいだろうということで、今は全部で二十組くらいいるでしょうか。いつも全員が仕事をしてる訳じゃなくて、輪番でしてもらってます」
 そんなにたくさんいるなら一組くらいもらえないものかな?
「あげません」
 うむ、残念だ。
「レトは、みんなを維持することだけしていて、運用はほとんどしてません。そこは全て私に任されています」
 そうこうしているうちに、脇に薔薇の咲き誇る小道を抜け、少し開けたところに出た。ちょっとした広場になっている。
 そこには九組のぷちレト航空隊と、若い女性……確か、イヴと言ったな……がいた。ぷちレトはぷちシャオウから降りていて、イヴに倣って体操をしているようだ。ティス司令の後ろを飛んでいた三組も、着地して先の九組に加わった。
「おはよう、ティス! と、あれー、ドストエフス」
 にゅわーっ!? イヴ、本名を言うでない!
「?」
「おはよう、イヴ。『ドス子』さんは、今日ぷちレト航空隊の取材をしにいらしたの」
「そうなんだ。おはようございます、『ドス子』さん。どうぞごゆっくり!」
 うむ、おはよう。……ここは後で編集が必要か。
「この体操は、このイヴが来ている時だけ行います。ぷちレトはその時に来られる子が来て、こうやって一緒に体操をするんです」
 それからしばらくの間、ティス司令とこのドス子も加わって体操をした。あまり激しいものではなく、体をほぐして温める程度だな。


 体操の後は再び小道を歩き、一つの屋敷に着いた。中に入り、通されたのはティス司令の執務室と思しき部屋だ。
「さて、そろそろ」
 壁掛けの時計が七度鳴った。
「来ました来ました」
 とティス司令が言うと同時に、三組のぷちレト航空隊がふよふよと部屋の中に入ってきた。すると、ティス司令に付き従っていたぷちレト航空隊たちが縦一列に着地。今入ってきたぷちレト航空隊たちもその隣に縦一列に着地。それから向かい合い、ピッと敬礼らしきものをした。短い手で懸命にやってる姿が愛らしいな。
 そして、先程までティス司令に付き従っていた三組は再びふよふよと飛び立つと部屋から出て行った。
「今来た三組が、今日私の直接指揮下に入る子たちです。出て行った三組が昨日の当番。毎日朝の七刻にこの部屋で前の当番と交代します。遠征などの時はこの子たちを連れて行くことになります」
 なるほど。とは言うものの、ここに来るまでに見掛けたぷちレト航空隊たちと全く区別がつかん。ティス司令は、見分けが付いているのか?
「全く同じに見える? そうですね、私も見分けは付きません」
 やっぱりそうなのか。ティス司令でさえそうなら、如何なこのドス子とて、難しいだろうな。
「でも、性格なんかは微妙に違うみたいです。どこがどうとははっきり言えないんですけれど、ほんの少しせっかちだったり、抜けてたり、引っ込み思案だったり。本当に、少しだけですけれど」
 個性があるのは、意外だな。ただのコピーではないのか。
 分身をたくさん作るのなら、コピーの方が簡単そうだが……訳がありそうだな。
「レトの考えることですから、どうなんでしょうね。考えがあるのかも知れませんし、単に面白そうだからかも知れません」
 面白そうというのならもっとはっきりした性格付けをしそうなものだ。だから、何か考えてのことなのだろうな。
「それでは、他の子たちを見に行きましょうか」
 ティス司令と共に廊下に出ると、今日の当番だというぷちレト航空隊は後ろからふよふよとついてきた。


 次に訪れたのは、食堂らしき大きな部屋だ。
 中にはぷちレト航空隊が六組。テーブルの上で思い思いのものを食べている。パンのかけらをもぐもぐやってるの、野菜のかけらをもぐもぐやってるの、ハムをもぐもぐやってるの……全員分合わせたら、普通の人間の一人前かもうちょっとになるか。
 そのそばには早くもエプロンドレスに着替えたイヴがいて、自分の朝食を作りながらぷちレト航空隊たちの世話を焼いているようだ。
 ほう、ぷちレト航空隊はものを食べるのだな。
「ええ。と言っても単純に魔力の補給だと思ってください。彼らの食べたものはそのままレトの魔力に変換されます」
 つまり自身の維持費か。それぞれ食べるものが偏っているように見えるが、全部本体であるレトに集約されるから、各個体でバランスの取れた食事とやらに気を配らなくて良いということか?
「そういうことですね。もっとも、微妙な性格の差があるのと同じように、微妙な好みの差もあるみたいです。ところでドス子さん、朝食は?」
 今朝は早かったからな。さっきレッティにもらったカッツェンツンゲを一本食べたきりだ。
「それなら、軽く何か召し上がりませんか? 今ならイヴが簡単に何か作ってくれると思います」
 それは助かる、お願いするぞ。
「はーい、すぐ作りますよー!」
 イヴはすぐに二人前のハムサンドと紅茶を用意してくれた。ぷちレト航空隊に食べさせるために準備していたのをそのまま使ったんだろうが、手際が良い。そう言えばメイドもしているんだったか。
 ハムはやや厚め、野菜はシャキシャキ。悪くない。
 イヴ、ご馳走になったぞ。
「どういたしまして!」


 期せずして朝食をご馳走になった後は、再び屋敷の外に出た。
《薔薇の空中庭園》というだけあってあちこちに薔薇の植え込みがある。その合間を、やっぱりゆっくり見回るようにふよふよとぷちレト航空隊が飛んでいる。
 よく見ると、何かタンクのようなものを運んでいたり、旗の束を持ったりしている。
 あの隊は何をしているのだ?
「薔薇の見回りですね。害虫くらいならその場で駆除します。もう少し難しかったり細かかったりする作業が必要な場合は、流石にあの体じゃ出来ないですから、そばに旗を立てておいて、私に報告をくれます。その報告をもとに、必要に応じて私達が処置したり、庭師さんを呼んだりします」
 庭師の負担を減らす訳か。確かにこれだけの庭園、全部いちいち庭師に見てもらっていては何かと大変だろう。ぷちレト航空隊、便利だな。
 その後、引き続き歩みを進めると、庭園の外周に出た。小高い山の頂上くらいの眺望と言えるだろう。いい眺めだな。そして眼下に広がる遥か遠い地面に、本当に『空中』なのだということを再確認させられる。
 そう言えば、この庭園、どうやって空中に浮いているのだ?
「それは私もよく知りません。レトなら把握していると思います」
 ふむ。何らかの超魔導的方法なのではあろうがな。もしかして、レトが魔力を循環させている回路とやらか? まあ、本人を掴まえて聞いてみても、教えてはくれんだろうな、流石に。
 ふと視線を遣ると、庭園の外をふよふよとぷちレト航空隊が飛んでいる。あれは一体何をさせているのだ?
「直掩隊とでも言えばいいでしょうか。一応、外向けの哨戒と、ある程度のことに即応出来るようにと、何組か外周に出しています」
 美しい庭園ではあるが、曲がりなりにも傭兵ギルドの本拠であったな。常に有事に備えているという訳か。数がいるとこうしたことも抜かり無く手配できるのだな。やはり、戦いは数だな!


「これで、普段ぷちレト航空隊がやっていることは大体紹介し終えましたけれど、何かご質問はありますか?」
 うむ、そうだな。ティス司令は遠征にぷちレト航空隊を率いて来ているが、戦闘訓練なんかはどのようにしているのだ?
「いいえ、特別には」
 それは意外な答えだ。それでは練度はどうやって保っている?
「この子たちは、レトの分身ですから。レトの持っている戦闘経験は最初から持っている訳です。逆に、この子たちの得た経験も、レトに取り込まれるようですよ」
 ……それって、何だか狡くないか。
「戦なんて、如何にうまく狡をするかだ……と、レトなら言うでしょうね」
 うむ、その通りだが。そうなのだが、うむむ。
「それは兎も角、流石に体のスケールが違い過ぎますから、そっくりそのまま経験になるという訳じゃないようです。その辺の情報処理がどうなっているかは、流石に本人でないと」
 なるほど。ではその差分の調整なんかは、時々しているのではないのか?
「そうですね。確かにそれが、普通の部隊での戦闘訓練に相当するかも知れません。それほど面白いものとも思いませんけれど、ご覧になります?」
 勿論見せてもらいたい。
「それではしばらくお待ちくださいね。レトにも伝えておかなければなりませんし、準備も要ります」
 ティス司令は後ろについて来ていたぷちレト航空隊に幾つか指示を下す。二組がそれそれどこかへ飛んでゆき、一組はここに残った。
 やがてしばらくして、一組戻ってきた。ティス司令の前で何か手をパタパタさせて、結果を伝えているようだ。
「レトも問題ないようです。準備もできたようですし、行きましょうか」
 そして再び、朝にイヴたちが体操をしていた広場に戻ってきた。そこにはぷちレト航空隊が先に四組。多分一組は、さっきこちらから飛んでいった組であろうな。
 広場には、円盤のようなものが六つ、ある程度間隔を空けて置いてある。これが訓練の的だな。
「それじゃ、始めましょうか」
 ティス司令がそう言うと、六組のぷちレト航空隊は後方、的からはそこそこ離れた辺りに集まった。
 それからティス司令が手を挙げ……前方に振る。すると、一組のぷちレト航空隊がスッと的の方に向かって、高度を高めにとって飛ぶ。速い。ぽやんとした顔でふよふよ浮いているのはあくまでも平時のこと、戦闘ともなれば、当然か。
 的の近くまで至ると、ぷちレト航空隊はぷちシャオウの首を地面方向に向け、急激に高度を落とす。同時にぷちレトは抜剣して掲げる。急降下爆撃と言うべきか、逆落としと言うべきか。
 降下中、掲げている剣の切っ先に何やら光が灯り、みるみる眩くなってゆく。魔弾の類であろう。そして、ある程度の高度で、ぷちレトは的に向かって剣を打ち振る。剣から的に向かって光球が放たれ……お見事、命中だな。
 光球の当たった的は、くわぁんと音を響かせ震えこそしたが、壊れてはいないようだ。訓練用の、打撃力がない弾だな。
「ええ、都度的を壊していては、経費が嵩み過ぎてしまいます」
 逆に、戦場ではあの魔弾はどんな効果なのだ?
「相手の戦闘力を奪うことだけが目的ですから、殺傷力はないですよ。ただし、物凄く痛いようです」
 負傷はさせないが痛みだけは与える、と?
「そうレトは言っていました。常人なら一発で気絶させられる程度の痛みだそうです……ただ、あくまで感覚に訴える攻撃ですから、効きが悪かったりすることは少なくないですね」
 なるほどな。よくよく鍛えておれば、相当の痛みにも堪えられるようだしな。そもそも感覚が鈍麻な場合も、あまり効かんのであろうな。
「そういう手合は、難敵ですから。ちゃんとイヴなり他の傭兵の方なりが、きっちり御相手致しますよ」
 当然だな。我が《永劫回帰》とて、皆が皆、どんな相手でも充分戦える訳ではない。当然得手不得手がある。そこをうまく差配するのが、この大軍師ドス子なのダ!
 などと言っているうちに、二組目から六組目までのぷちレト航空隊も、それぞれ別の的にきっちり魔弾を当てていた。見事な練度だな。

 

 ……さて。者ども、如何だったかな?
 これが、今をときめく《ぷちレト航空隊》の実態だ。このドス子が自ら調査に向かっただけあって、微に入り細を穿ち、よく分かる取材であったろう?
 もしかしたら、今まで知らなかったというのーきん諸君も《ぷちレト航空隊》が一組くらい欲しくなったかも知れんな? だが残念、当然譲ってはくれんし、例え何らかの方法で捕らえたとしても、すぐに溶けるように掻き消えてしまうのだそうだ。魔力で出来た分身ということだから、それも仕方ないな。捕らえられる、と感知した瞬間に本体であるレトが何らかの方法で回収しているのだろう。
 だが、縁があれば、何かしら仕事を手伝ってもらうことは出来るかも知れん。あちらも傭兵だからな、状況と報酬次第では請け負ってくれるだろう。そういう折をうまく見つけて、愛でると良いな。

 では今回はここでさらばダ、者ども! また何かの企画や調査で会おう!